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練吉は眠気から覚めたやうに、
「あのう、笹井へ往診がございますが」
「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」
「今晩、寄せてもらつてもえゝですか」
横合から冷かすやうに口を入れたのは雑貨店の庄谷だつた。痩せた上に黒く日焼けがし、固く乾いたやうな顔には小さいが白味の多い眼がいつも人を小莫迦こばかにするやうに閃いていた。彼はさつきもその眼で入つて来たばかりの房一を見、房一が挨拶すると「あン」といふやうな声を出しただけで、すぐに話に聞き入つていたのだつた。
それ以来、逗留客は奥の客便所へゆくことを嫌って、宿の者の便所へ通うことにしたが、根津は血気盛りといい、かつは武士という身分の手前、自分だけは相変らず奥の便所へ通っていると、それから二日目の晩にまたもやその戸が開かなくなった。
「さういふあんたはどなたで?」
小谷は不安げに呟いた。
「や、これは。高間さんですか。お久しぶりで」――「お忙しいですか」
「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」
と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が
「おい」と盛子を呼ぶ声がした。
彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、